【令和8年4月1日施行】医療法・健康保険法改正で変わるクリニックの新規開業と管理者要件
2026年4月より、改正医療法が施行されました。
これまでは、クリニック(診療所)の新規開業は、医師免許と初期研修を修了していれば、キャリアの浅い医師であっても比較的自由な場所で開業することができましたが、医療法・健康保険法の改正により、都市部(特に東京都23区など)での開業や分院展開には厳しいルールが課されることになります。
本コラムでは、医師の先生方がこれからのキャリアや経営戦略を立てる上で避けて通れない大きな規制と、その対策について解説します。
医師の地域的偏在を是正するための新制度
厚生労働省の統計によれば、人口あたりの医師数には都道府県間で大きな格差が生じています。東京の千代田区、中央区あたりが特に顕著ですが、都市部ではクリニック同士の競争が激しい一方、地方では必要な医療を受けられない実態があります。
そこで、地域医療の偏在を是正するため、特定の地域における診療所の新規開業に対して一定の制限を設ける制度が導入されました。後述のとおり、新制度により、都市部への集中が是正されるかというと懐疑的な見解もありますが、法改正がなされた以上、現実的なクリニックの新規開業手続を練っていく必要があります。
医療法及び健康保険法の改正によってクリニック新規開業にどう影響するのか?
2026年4月施行の医療法改正により規定された第30条の18の6は以下のとおりです。
医療法
第四節 地域における外来医療に係る医療提供体制の確保
第30条の18の6
1 都道府県知事は、第三十条の四第二項第十四号に規定する区域であって、外来医療を行う医師の数の、外来患者の数に対する比率に相当するものとして厚生労働省令で定めるところにより算定した率その他厚生労働省令で定める指標が、厚生労働省令で定める基準を超えるものがある場合において、当該区域のうち、特に地域外来医療を確保する必要がある区域があると認めるときは、当該区域を指定するものとする。
2 都道府県知事は、前項の指定をしたときは、厚生労働省令で定めるところにより、その旨を公示しなければならない。
3 第一項の指定を受けた区域において、診療所(医業を行う場所であって、患者を入院させるための施設を有しないものに限る。)を開設しようとする者は、やむを得ない場合として厚生労働省令で定める場合を除き、当該診療所を開設する日の六月前までに、厚生労働省令で定めるところにより、当該区域における地域外来医療の提供に関する意向その他の厚生労働省令で定める事項を都道府県知事に届け出なければならない。
(省略)
6 都道府県知事は、前項の説明の内容を踏まえ、理由等がやむを得ないものと認められないときは、届出者等に対し、期限を定めて、当該区域における地域外来医療の提供をすべきことを要請することができる。
(省略)
9 都道府県知事は、前項の説明の内容を踏まえ、理由等がやむを得ないものと認められないときは、当該診療所の開設者又は管理者に対し、都道府県医療審議会の意見を聴いて、当該区域における地域外来医療の提供をすべきことを勧告することができる。
10 都道府県知事は、前項の規定による勧告をした場合において、当該勧告を受けた診療所の開設者又は管理者がこれに従わなかつたときは、その旨を公表することができる。
健康保険法
第68条(保険医療機関又は保険薬局の指定の更新)
1 第六十三条第三項第一号の指定は、指定の日から起算して六年を経過したときは、その効力を失う。
第68条の2(保険医療機関の期限付指定)
1 厚生労働大臣は、診療所の開設者又は管理者が医療法第三十条の十八の六第六項の規定による都道府県知事の要請を受け、これに応じなかった場合、同条第九項の規定による都道府県知事の勧告を受けた場合又は当該勧告を受け、これに従わなかった場合には、前条第一項の規定にかかわらず、厚生労働省令で定めるところにより、第六十三条第三項第一号の指定を行うに当たっては、三年以内の期限を付することができる。
2 前項の規定により期限が付された第六十三条第三項第一号の指定については、前条第二項の規定は、適用しない。
改正医療法・健康保険法の内容を簡単にまとめると、下記の内容になります。
①外来医師過多地域での事前届出義
外来医師過多地域で新規開業する場合、開業予定日までの6カ月前までに都道府県知事への事前の届出が必要となります。
②地域医療への協力要請
外来医師過多地域では、自治体から「初期救急(夜間・休日対応)」「在宅医療(訪問診療)」など、地域で不足している医療機能の提供を要請されます。自治体からの要請を正当な理由なく拒否し、協議に応じないまま新規開業を強行した場合、都道府県知事の勧告・クリニック名が公表されるというリスクがあります。
③最終的な措置として保険医療機関としての指定期間が通常よりも短縮される
保険医療機関の指定は、健康保険法により6年ごとの更新制となってます。健康保険法の改正により、自治体からの地域医療協力要請(夜間診療や在宅医療など)を拒否し続けた場合、この指定期間が「6年」から「3年」に強制短縮されます。
外来医師過多地域に該当する地域は?
厚生労働省医政局地域医療計画課が通知した「外来医師過多地域に係る候補区域の公表について」(令和8年3月27日付)によれば、下記の区域が候補区域とされています。

上記はあくまで候補地域ですので、最終的な地域指定は各都道府県の判断になります。
都市部においては、希望する開業物件が外来医師過多地域に該当しないか否か、自治体の最新動向を確認することが不可欠となりました。
管理者(院長)要件の厳格化
外来医師過多地域での新規開業規制とともに注意しなければならないのが、健康保険法の一部改正による保険医療機関の「管理者」要件です。
従来、管理者(クリニックの院長)になるためには、①医師免許の取得、②2年間の臨床研修(初期研修)を終了すれば、キャリアの浅い医師でも管理者となることができ、新規クリニックの開業が可能でした。
しかし、健康保険法の改正により、下記の条文が追加されました。
健康保険法
第七十条の二 (保険医療機関の管理者の責務)
保険医療機関の管理者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する者でなければならない。
一 保険医であること。
二 医師法(昭和二十三年法律第二百一号)第十六条の二第一項の規定による臨床研修の修了後に保険医療機関(病院に限る。)において保険医として三年以上診療に従事した経験又は歯科医師法(昭和二十三年法律第二百二号)第十六条の二第一項の規定による臨床研修の修了後に保険医療機関において保険医として三年以上診療に従事した経験その他の厚生労働省令で定める要件を備える者であること。
本改正により、これまでは、医師法で義務化された2年間の臨床研修を修了すれば、キャリアの浅い医師であってもすぐに独立開業が可能でしたが、今後は、臨床研修2年+保険医療機関(病院)で3年勤務する必要があります。
近年、臨床研修後に専門研修(後期研修3~5年)を経ず、直接、美容医療の道へ進む「直美(ちょくび)」を選択する医師が増えています。
このようなキャリアを選択した医師は、比較的早い段階で美容グループの分院長に就任するケースや、早期に独立開業する例が見られます。
本改正により、臨床研修後すぐに美容医療業界で働きだした勤務医師は、今後は3年以上病院での勤務経験がなければ、保険診療を行うクリニックの院長になれません。
自由診療は規制対象外
外来医師過多地域の規制は、美容クリニックなどの自由診療に特化したクリニックは規制対象外となります。
開業規制の下でスムーズなクリニック開業を目指すには?
2026年からの新規クリニック開業は、医療ニーズと法規制を合致させる戦略が求められます。物件探しの初期段階から、最新の「外来医療計画」を確認し、必要に応じて弁護士等の専門家の助言を得ながら準備を進めることをお勧めします。
①開業希望地の調査
まずは、開業を検討している地域が外来医師過多地域に該当するか否かを調査しなければなりません。
②階病希望地の医療計画を確認
都道府県が発表する「外来医療計画」や「保険医療計画」を確認します。
どの地域でどのような医療機能が不足しているのか公表されています。この情報収集が疎かな場合、テナント契約後の計画が頓挫することにもなりかねません。
③開業6カ月前までに事前届出を具体的にしておく
開業を予定している日の6カ月前までに都道府県に対する事前届出が必要であるため、かなり早い段階から「開業を予定しているクリニックがどのよう形で地域医療に貢献していくのか」という診療方針を策定する必要があります。
事前届出書・事業計画書に、各自治体が公表している外来医療計画の内容を反映しながら、新規開業クリニックが地域のニーズに合致しているかを示します。
④自治体の要請する地域医療との事前交渉
今後、外来医師過多地域内で開業を目指す場合、都道府県との協議のプロセスが非常に重要になるものと思われます。
極論すれば、自治体の要請に全て従えば、外来医師過多地域であっても開業できることにはなりますが、医師も全ての要請に従うことは現実的に困難です。
したがって、行政の要請に従いつつ、クリニックの経営上の観点や自身の専門性を考慮し、過度に圧迫しない範囲での地域医療貢献を策定し、自治体と交渉をすることが今後非常に重要になってくると思われます。
なお、千代田区のような医療機関密集地は「超・外来医師多数区域」と位置づけられており、行政との事前折衝が長期化するリスクに注意が必要です。
改正医療法について
東京保険医協会は、本改正について下記の主張を表明しています。
https://www.hokeni.org/docs/2026021300064/
https://www.hokeni.org/docs/2026040100089/
東京保険医協会は、単純な統計指標に基づく新規開業制限が地域医療の実情や診療科ごとの需要を無視しており、結果として医療体制を弱体化させ、また、開業医に特定の役割を強いることは職業選択の自由を脅かし、医師の過重労働を助長するリスクがあるとも指摘しています。
私見としては、希望する地域で新規クリニックを開業するために形骸的に夜間診療や在宅医療を行う医師が現れるとすれば、かえって地域医療の質が低下するような気がします。
医師も専門分野は多種多様でそれぞれの専門性を持って地域に貢献しようとしているのですから、一律に夜間の救急外来や在宅医療を要請することは地域医療のネットワークをかえって破壊する恐れがあるのではと思います。
医療法改正により、今後、公表される「外来医師偏在指標」のデータに有意な変化があるのか等、注視していきたいと思います。

