アプリで出会い「独身偽装」 慰謝料に関する考察
アプリで出会い「独身偽装」 男性に121万円賠償命令

近年、マッチングアプリの普及に伴い、独身と偽って交際・性交渉を行う「独身偽装(貞操権侵害)」をめぐる訴訟が全国各地の地裁で相次いで起こされています。
独身偽装をめぐる裁判の増加や近年の裁判所の動向について考察したいと思います。
名古屋地裁の認定した賠償額
上記の名古屋地裁の判決は、「信頼を裏切られた原告の心の傷は深く、苦痛は極めて大きい」として、121万円を賠償額として認定しています。
記事にあるとおり、原告女性が「人生を壊した賠償が121万円というのは軽く見られている」と感じる心情は極めて自然なものと思われます。
もっとも、従来の独身偽装による貞操権侵害の慰謝料は、交際期間や結婚の具体性にもよりますが、50万〜100万円程度にとどまるケースが多くありました。今回のケースで121万円という数字が出た背景には、事案の悪質性を裁判官が考慮したと考えられます。
「不貞行為の慰謝料」との比較における裁判所の観点
婚姻期間1年程度の場合、不貞慰謝料の金額は「不貞の結果、夫婦関係がどうなったか(離婚するかどうか)」によってベースとなる金額が変動しますが、婚姻期間の長さが金額を左右する重要な要素であることは間違いありません。
婚姻期間が1年程度の場合、不貞慰謝料の相場は50万円〜150万円程度になるケースが一般的です。
短期婚姻の離婚(不貞)と1年3か月の独身偽装を比較した場合、法的なステータス、保護される権利、不利益がそれぞれ異なります。
| 項 目 | 婚姻1年3カ月で不貞離婚 | 独身偽装で1年3カ月交際 |
| 法的ステータス | 戸籍上の夫婦 | (独身と偽られた)交際関係 |
| 保護される権利 | 婚姻生活の平和・維持 | 貞操権、性的自己決定権 |
| 主な不利益 | 結婚生活の破綻 | 結婚適齢期の時間の喪失 |
短期婚姻の離婚と同等の重み?
本来、法的な保護の強さで言えば「法律上の夫婦」の方が「未婚の交際関係」よりも遥かに強固です。未婚の交際破局では、原則として慰謝料も発生しません。
しかし、今回の地裁判決が出した「121万円」という数字は、戸籍上の夫婦が1年3カ月で不倫離婚した際の慰謝料とほぼ同水準のように思われます(感覚的にはむしろ高額の部類です)。
これは裁判所が、事実上「婚姻に向けた真剣な交際」という保護されるべき法的な権利(貞操権)が、短期婚姻の破綻に匹敵するレベルで著しく踏みにじられたと認めたことに等しいのではないでしょうか。
もちろん、「最初から騙されて時間を奪われた」という本質的な無念さを金額に反映しきれないという法の限界はあるものの、法的な観点やこれまでの裁判例の積み重ねから見れば、裁判官はかなり原告に寄り添った判断をしたと推測します。

