【医療機関コラム】-患者から「医療ミスだ」「損害賠償を」と言われたら?医療過誤を主張された初期対応と流れ-
医療現場では、どれほど最善を尽くしていても、患者側の期待する治療結果が得られずトラブルに発展してしまうケースがあります。特に「手術後に神経障害が起きた」「納得のいく説明がない」として、医療ミス(医療過誤)を疑われたり損害賠償を求められたりした場合、医療機関側には大きなプレッシャーがかかります。
この記事では、患者や遺族から医療過誤を主張された際の正しい初期対応と、その後の具体的な手続きの流れについて解説します。
患者から「手術後に神経障害が起きた。医療ミスでは?損害賠償を請求したい」と言われたら?
まずは冷静になり、「問題となった医療行為の調査」と「丁寧な説明」を行うことが第一歩です。 並行して、弁護士や保険会社と連携し、医療機関側に責任があるのか(有責・無責)、賠償が必要な場合はどの範囲かといった方針を固めていく必要があります。
医療過誤を主張された際に行うべき5つの対応
1. 事案の調査(客観的な分析)
まずは執刀医や主治医だけでなく、専門的な知見を持つ第三者の医師も交えて調査を行います。カルテ(診療録)や画像データ、検査結果などの客観的資料をもとに、医療行為に問題がなかったかを多角的に確認します。
※なお、患者の死亡や死産など、医療法上の「医療事故」に該当する可能性がある場合は、医療事故調査・支援センターへの報告や院内調査が必要となるため注意が必要です。
2. 患者・遺族への説明
医療機関は、患者に対して診療経過を説明する義務を負っています。
- 具体的かつ客観的な説明: 画像や検査結果を示しながら、客観的事実に基づいて説明します。
- 曖昧な回答や憶測は避ける: すぐに回答できない事項は「改めて調査して回答する」と伝え、不正確な判断で憶測を述べるのは避けましょう。
- 録音を意識した慎重な対応: 紛争化しそうな場合、やり取りが録音される可能性があります。医療機関の説明が変遷した場合には、医療機関側の主張の信用性が低くなります。
3. カルテ(診療記録)の開示請求への対応
患者本人からカルテ開示を請求された場合、個人情報保護法に基づき、原則として速やかに開示する義務があります。開示を不当に拒否すると、患者の不信感を煽り、裁判所を通じた「証拠保全手続き」などに発展するリスクが高まります。
※患者が亡くなっている場合でも、厚生労働省の指針により(平成15年9月12日厚労省通知)、遺族(配偶者、子、父母等)からの開示請求には原則として応じる必要があります。
4. 弁護士への早期相談
説明を行う前の段階から弁護士に相談することで、医療行為に対する「法的な評価」を踏まえた適切な説明方法のアドバイスを受けられます。「誤解を与えない言葉選び」や「見解を正確に伝える構成」を事前に準備することが大切です。
5. 医師賠償責任保険への報告・連携
医療紛争に発展した場合、示談金や損害賠償金が高額になるケースがあります。加入している賠償責任保険がある場合は、早期に保険会社へ事故の報告を行いましょう。保険の適用条件や、交渉の進め方について協議しながら対応を進めます。
紛争化した場合の具体的な流れ
患者側との話し合いで解決しない場合、以下のようなステップで進みます。
1.示談折衝(直接交渉)
医療機関・弁護士・保険会社で協議した方針に基づき交渉を行います。自院においても有責と考える場合は、訴訟の長期化リスク(遅延損害金や法的費用の増大)を避けるため、合理的な金額での示談を目指すのが一般的です。
2.民事調停・医療ADR(裁判外紛争解決手続き)
裁判所(民事調停)や弁護士会(医療ADR)などの第三者機関を挟み、合意による解決を目指す手続きです。
訴訟に比べて短期間で柔軟な解決が期待できます。 もっとも、合意が得られない場合には最終解決に至らず、訴訟に移行することが多いため、結果的に紛争解決までの時間が長期化するケースもあるため要注意です。
3.訴訟(裁判)
訴訟が提起された場合、裁判所から送達される訴状に対し、準備書面や医学的証拠(論文やカルテ)を提出して反論を行っていきます。判決まで数年を要することもあるため、担当医師が異動・移籍した場合でも連絡が取れる体制を整えておくことが重要です。
医療対話と初期の専門家連携が鍵
医療過誤を疑われた際、初期の段階で患者側の感情的もつれをほぐす役割として「医療対話推進者(メディエーター)」を通じた対話も非常に有効です。
一方で、法的な紛争に発展する兆候が見られる場合は、独断で判断せず、早めに医療問題に精通した弁護士や保険会社へご相談いただくことをおすすめします。

